なつものがたり
百合子が、俺の顔じゃなく俺より後ろを見て、表情が固まった。
そんな些細な変化に俺は【?】が浮かぶ。
【?】が何かを確かめたくて
振り向こうとした瞬間、
キス、された。
付き合い直してから、はじめてのキスを。
このキスは、百合子が自分の身を守るためなんだろ?
そんなことしか、思えない後味。
そのキスには、何の愛情も感じられなかった。
これが、百合子の答えか、なんてヒシヒシと伝わってくるものがあって。
情けなくなった。
元彼にでも、見せつけたかったのか?
俺は意外と弱くて。
そんなこと、聞けるはずもなく。
「どーした?じゃがバタ、食い行こう」
「あ、うん。」
今度はぐいぐいと俺が百合子を引っ張る。
付き合い始めた、高校生の夏休みみたいに純粋に楽しめないのは、どうしてか。
その理由がパンドラの箱であることに
この瞬間、初めて気付いた。
百合子が、好きなのに。
この好きって感情は…。
なぁ、百合子は…なんで?
なんで?
なんで、俺を好きなんて言ったんだ?
「きぃちゃん、ど、した?
なんか、怒ってる?顔怖いんやけど…」
「怒ってねーよ。別に。」
俺の腕をひいて、人混みで立ち止まった百合子。