なつものがたり
「キスしちゃ、あかんの?」
不信感しか湧き上がらない。
堂々と聞いてくる彼女を、困らせたくなった。
俺が彼女を大好きだと、一点の曇りもなく信じていて。
そのくせ、俺のことは、きっと、好きでもなんでもない彼女を、困らせて、悩ませたいと思った。
「俺のこと、好き?」
聞いて、どうなんだろ。
「なに、言うて…?」
「なんで、キスした?」
「…好きやから。」
ゆっくりと歩きながら、祭りの会場を遠ざかる。
「ほら、目が泳いでる。」
カマをかけるように。
じっくりと、ゆっくりと、彼女を困らせる。
けど、その反面、俺自身も傷付けてんだよな。
百合子が、俺のことを本気じゃないってことくらい、あの電話の日から分かりきってたことじゃんか。
「ねぇ、どしたの?
あたしのこと、嫌いになった?」
ほら、焦ると標準語になるクセが治ってない。
「百合子は、なんで俺のとこに戻ってきた?」
二年前に、こっぴどく俺を振ったのはお前なのに。
「なんでそんなこと言うの?」
俺にも、わかんねえや。
なに、言ってんだろ。
「いや、悪い。
今日は、帰ろ。送るから。」
なんでこんな、混乱してんだろ。
頭を冷やしたい。
深く考えたくなんてない。