なつものがたり
“ 浴衣姿の
彼氏と一緒にいた果歩を見たから。”
考えるな、
考えるな。
パンドラの箱が、少しだけ開く。
ガチャリ、と小さな金属音。
カーッと血が登るような全身の熱さ。
うそ、だろ。
俺。
「いやや。帰らへん。
きぃちゃんなんかっ、きぃちゃんなんか知らんっっ」
「百合子っ、」
百合子は、一目散に祭り会場へ走り出す。
けど、俺は追えない。
ナンパでもされたらたまんねぇ。
そう、思ってるくせに。
友達と合流するとも言ってたし…
そんなこと考えて余裕ぶって。
あー、くそ。
自分がわけわかんねぇよ。
結局、おれは
あとを追えなかった。
果歩に会いたい。
と、この祭り会場のどこかにいる果歩を探そうとしている自分に気付いた。
一人で引き返す祭り会場への道は永遠に続きそうなほど、長く感じた。
このまま百合子のそばにいるべきなのか…
それさえも、わからなくなった。
第二章 完結。