なつものがたり
わ~お。
通話ボタンを押すことが躊躇われる。
ディスプレイに表示された番号と名前は、間違えなく
希鷹
と書かれている。
「もしも、し。」
ー よ、久しぶり、
「うん。」
だめ だ。
緊張してる。バッカみたい。
なんだこれ。
ー なんか、元気ないな?
「いや。別に。夏バテかな?ははっ。てか、どーしたん?」
至って冷静なふりはするけど、
心臓がバクバクいってて
なんだか落ち着かなくて。
狭い部屋の中をウロウロしてしまう。
ー 明日、バーベキュー行くだろ?
「あ、うん。」
ー 俺、車で行くんだけど、乗ってく?
「?!
え、いや、
いいよ、わざわざ。」
なんで、誘うんだよ。
希鷹への気持ちの大きさに気付いてしまったあたしは、希鷹と2人きりな状況に耐えられそうもない。
ー なに、遠慮してんだよ。どーせ通り道だし。
そう、“どーせ通り道。”
だから、だっつーの。
無駄に期待してる自分の馬鹿さが身に染みて、なんか、痛い。
ずきずきする。
ほんと、馬鹿。
「そーゆーことして、
蒲田さんにバレたらまたフられんよ?」
こんなこと、言いたくない。
蒲田さんの話なんか、したくない。
ー まっ、それもそーか。
ー …じゃーな。また、明日
プープー という機械音がグサグサと胸をえぐっていく。
また、
どこかで、期待してた。
そんなこと吹っかけたって
“ なに言ってんだよ、”
って、
“ 迎えに行くから ”
って、
あたしを優先するんじゃないかって。
馬鹿なこと。