なつものがたり
「出てけっつってんだろ、」
希鷹が怒鳴ると、
ハイハイ、
と鬱陶しそうに手をひらひらさせて、あたし達をからかうように、その人影は出て行った。
カチャン、
ドアが閉まると静寂が訪れる。
「わりぃ、鉢合わせちゃって。
怪我、ない?」
ただ、ビックリしただけだから。
そう言いたいのに、
言葉が出てこない。
「…ごめんな」
そう言って、口をパクパクする鯉みたいな間抜けなあたしの頭を優しく撫でる。
その優しさが、なんか辛くて。
目の中で涙がどんどんと溜まってしまうのがわかる。
「…泣きそうじゃん、」
泣かねーし!
そう、反論したいのに。
ビビったのと、胸が痛いのと、いろんな感情がごちゃごちゃになって。
涙が溢れてしまった。