なつものがたり
果歩の唇についたチョコレートを見つめながら、
このまま、この腕の中に抱きしめたいと思った。
そして、キスがしたい、と。
だけど、そんなの許されない。
お前には “彼氏”が、いるんだろ?
今まで、一番近くにあったと信じていた果歩の存在が、遠くに感じる。
“ 彼氏作れよ、” そう言い放った過去の俺の余裕がムカつく。
俺と果歩が出会ってから、果歩に彼氏がいたことはなかった。
だから、当たり前に男友達のように振舞っていたけど、
ここにいるのはもう俺の知らない “ 誰か ” の果歩。
「こちらこそ、ごめん。
思いっきり、ビビっちゃって。
だいぶ落ち着いた!ありがと!」
突然の果歩の声に焦る。
どう、接すればいい?
どう、接してた?
「どした?
希鷹、顔色悪い。」
「んいや、なんでもねえよ。
飲み直すか!」
俺、うまく笑えてるのか?
言動が不自然になってしまった気がして、落ち着かない。
こんな気持ち…、冗談じゃない。
今まで何人の女と遊んでも、感じなかった息苦しさ。
「よし、じゃあ、
あたしらの友情に乾杯っ」
「…かんぱいっ」
カチッ、という缶チューハイのぶつかる音がやけにさみしげに響いた。