なつものがたり
その心の奥底に沈めた記憶。
大地は、百合子は、何を考えてんだ。
2人で俺を嘲笑ってるわけ?
「きぃちゃん…?」
泣きながら、しゃがみ込む百合子をどうすることもできない。
むしろ泣きたいのは、こっちだ。
許すことも、いまだにできない。
百合子のために傷つくこともこれで最後。
全部、綺麗事を重ねてたのかな。俺。
「ごめん、」
その一言を言うのがが精一杯で、泣きじゃくる百合子の横を歩き、玄関へ向かう。
「ほらな、」
そう、大地が耳につく声で言う。
声を聞くだけでもイラつく。
「お前のこと、”自分を傷つけてまで守りたい”なんて言ってくれるやつは一生現れねえ。
言ったとおりだろ?」
吐き捨てるように、百合子に言い放つ大地を殴りたくなる。
「せやけど…っきいちゃんはっ」
俺は…?
耳を、ふさぎたい。
「あたしのこと、ずっと好きでいてくれる…悲しませない…ねぇ…そうでしょ?」
ふ、と高校生の頃を思い出す。
“あたし、今回の模試は絶対負けへん!”
そう勝ち気に宣言していた彼女のことを。
そうだよな。
俺は…
百合子の
ステータスの1つ…。
百合子が自分を守るための、1パーツ。
かっこわりいけど、聞きたくなかった。認めたくなかった。
でも、どっかでは気付いてた。
気づかないふりを、続けてたんだ。