なつものがたり
どのくらいの時間が経ったのかもよくわからないまま、眠気と戦いながらブランコに揺られることにも飽きると、やっと携帯を取り出す。
着信8件
希鷹だらけ。
家を飛び出してから、1時間近く経っていた。
どうしよ、財布がないのは痛い…。
また、携帯が震える。
「え?」
ディスプレイには
“春(shun) ”の文字。
「もしもし」
『もしもーし!』
「ん?!」
携帯から聞こえる電子音の声と、
馬鹿みたいにデカイ生の声が少しの時差でわたしの耳に入る。
「なんで、」
ズカズカとブランコに近寄って来る影は、空気を読むことなど一切なさそうな笑顔。
「いやー、こっちのセリフでしょ。
真夜中に公園でなにしてんの」
「いや、こっちのセリフ」
不機嫌感を丸出しでもビクともしない春に感嘆するわ。
「あ、そう?俺は飲み会の帰りー!
家この辺なんだわ♫」
「へーぇ。」
「え、果歩は?
地元はあの夏祭り神社の近くだろ?」
「ご想像にお任せするわ」
「家出?」
「ちが」
「彼氏を探し」
「いねーわ!」
「深夜のジョギング」
「ハイハイ、」
「俺を探s」
「はーぁ、」
なんか、アホすぎて、ため息しかでない。
ある種天才だ。コイツ。