君の知らない空


彼の姿を見たのは、これで二度目。


以前に見たのは後ろ姿。
今日は、初めて彼の顔を見た。


顔を見たと言ってもキャップを被って眼鏡を掛けていたから、ちゃんと見えたとは言えないかもしれない。キャップも眼鏡も外していたら、彼だと気づかな買ったかもしれない。


だけど眼鏡の奥に覗いた目は、穏やかで優しくて。がっしりとした後ろ姿から想像していたものと違う。キャップの裾から焦げ茶色の柔らかな髪が、ふわりと風に舞うのが印象的だった。


そして、自転車の似合う人。
軽やかに自転車を漕ぐ姿が、あんなにも様になっている人を見たことがない。


でも決して、彼のことを好きになったとかいうわけじゃない。最初に見かけてから、会いたいと思い続けていたわけでもない。


ただ、彼の纏っている風の匂いが心地良くて。忘れられない。


また、会えるかな……
また、会いたい。




< 10 / 390 >

この作品をシェア

pagetop