君の知らない空
「高山さん、あの……ひとつ聞かせてもらってもいいですか?」
「はい? 何ですか?」
「前から気になってたんですけど、あの方とはお知り合いなんですか?」
ずばり聞かれて、私は戸惑った。
何と答えるべきか……
きっと沢村さんは、ジムでの私の行動を知っている。
私の片思いだと答えれば、私の行為はストーカーに間違われてもおかしくない。
間違われても仕方ないような行動をしているのは、私なんだ。
そう思うと急に恥ずかしくなってきた。
沢村さんは、赤面しているだろう私の答えを待っている。
「あ、昔の知り合いによく似てるなぁと思ってて……でも、確信がなくて……」
頼りない返事。
自分でも情けないと思ったけど、他に答えが見つからない。
それなのに沢村さんは、納得したように頷いた。
「ああ、そうだったんですね、同級生とか?」
「え……ええ、そうなんです。名前が思い出せなくて」
苦し紛れに笑った。
「そういうこと、ありますよ。私もね、その辺で同級生に会っても名前が思い出せないことがよくあるんですよ、適当に話を合わせてて、後になって、さっきの誰だっけ?って」
「そう、それなんですよ。ホントに忘れちゃいますよね」
何となく丸く収まったから安心した。
私もストーカーみたいと思われずに済んだし。
でも、今日からプール覗きにくくなったなぁ……
と思いながら、私はマシンを始めた。