君の知らない空


私はプールではなく、ジムの出入口の前にある階段の陰に潜んでいた。階段の一番下段から延びる花壇に腰を下ろすと、ちょうど駐輪場を望むことが出来る。


私の視線の先には赤い自転車。
彼の自転車だ。


心地良さげに泳ぐ彼の姿は見ることが出来なかったけど、せめて一言お礼だけは言わなければ。


どれぐらい経てば出てくるのか、予想もつかない。それでも私は待つと決めていた。一度は諦めかけたけど。


出入口が開くたびに顔を上げ、階段を下りてくる人を何人見送ったのだろう。


ふぅと息を吐いた。
蒸し暑さの中を通り抜けていく風は、いくらか涼しくなったように感じられる。


ジムに隣接するショッピングモールは既に閑散とし始め、24時間営業のファーストフード店だけが不釣り合いなほど賑わっている。私がジムに通い始める前、彼を見ていた店だ。


ここから見える客層は様々だ。とりわけ男女問わず若者が多く、やたらと話し込んでは楽しげに笑い合う姿が目に付く。


あの店で待てばよかったかなぁと、今更ながら思った。


そんな中、店の窓際のカウンター席に並んで座る若い男性二人に目が留まった。ふたり連れだというのに言葉を交わす様子もなく、ジムの方を見ている。


二人ともTシャツで短髪。
とくに見知った人でもないが、何かが引っ掛かった。



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