君の知らない空
山本さんと野口さんは、じっと私を見据えている。嘘じゃないかと私の顔色を窺うように。
「そう、あなたも知らないんだ」
野口さんが、ふぅんと言うように頷く。
ほっとして息を吐きそうになるのを堪えていると、山本さんが野口さんに目配せをした。
「江藤君ね、白木さんに手を出そうとして、白木さんの彼氏に襲われたんじゃないかと思うんだけど、どう思う?」
声を潜めた山本さんの顔が強張る。
それよりも、優美と同じことを言うことが怖い。
「でも、彼氏は居ないって言ってたし……」
「高山さん、私たち見たのよ。この前の日曜日、白木さんが男の人と一緒にいるところを」
「すごく仲良さそうに腕組んでたし、あれは絶対に彼氏に間違いないわよ」
なるほど、それが二人の自信の根拠だったんだ。
「そうだったんですか……でも、江藤君がしつこ過ぎるとは思えないし、襲うなんてことを普通はしないと思うんですけど」
反感だと取られないように慎重に返したが、山本さんはむっとした顔をする。
「江藤君は悪くなくても、相手が悪い人かもしれない。だって服装が派手で、ちょっと変わってる感じの人だったし」
二人の推理に呑み込まれそうになる。
始業のチャイムが鳴った。
「高山さん、白木さんのこと注意してて、何か分かったら教えてね」
二人は言い残し、事務所へと戻っていった。