君の知らない空


真っ暗な闇の向こうへと目を凝らす。
街灯の光の射さない黒の視界に、うごめく複数の人影。


何をしているのか、ここからではよく分からない。
さっきの声に代わって、聴こえてくるのは囁くような声。辛うじて、そこにいるのが男性だと分かった。


あの中に、彼がいるかもしれない。
もっとよく見ようと、私は無意識に身を乗り出した。


が、不意に足を取られて体勢が崩れ落ちる。


「いやっ……」


思わず声が漏れる。
小さな側溝に足を滑らせたのだ。


闇の中の人影が、私の声に気づいて振り返る。彼らの目が異様な光を放ったように見えた。


危ない!


本能的な声が、体の奥から警告を鳴らす。


彼らのうちの数人が、こっちに向かって歩み寄ってくる。表情は分からないけど、ただ怖いとしか思えない。


逃げなくちゃ!


立ち上がろうとして、足首に激痛が走った。
壁に手を付きながら、何とか立ち上がったけど動けない。恐怖で体中がガクガクと震え出し、力が抜けていく感覚。


私は何も見ていない。
でも、きっと見てはいけないものだったんだ。彼らは私が見たと思って……


ひやりとした空気が、全身を包み込むように迫り来る。


頭の中が真っ白になっていく。


私の体を巡るのは、あの時以上の恐怖と今ここにいることへの後悔。


助けて!


何処からか、ずっと遠くから、
桂一の声が聴こえた気がした。


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