君の知らない空

ずっと鼓動を追い掛けていた。
どれぐらいの時間が経ったのだろう。


いつしか、涙は枯れてしまったように止まっていた。でも、まだ胸がドキドキしている。


薄っすらと目を開けると、小さな窓。そこから差し込む光が頼りなく、小さな部屋の中を露わにする。
殺風景な部屋には、簡素なテーブルとソファだけ。


ゆっくりと私をソファに横たえて、彼は身を屈めた。黒いキャップが目に映る。いつの間に被ったんだろう。


上体を起こして、足を下ろそうとしたら彼が制止した。


「じっとして、足痛めた? 」


柔らかな声。
私の左の足首に触れた手が温かい。


「ちょっと待って、ここを動かないで」


彼が立ち上がる。
縋るように伸ばした手が、空を掴んだ。


「待って!」


置いて行かないで……


声に出せない思いが通じたのだろうか。
彼がゆるりと振り返る。


「大丈夫、すぐに戻るから」


薄明かりの向こうで微笑んで、彼が部屋を出て行く。


信じていいの?
本当に待っていてもいいの?


ほの暗い部屋に取り残された私の心に、不安と共に湧いてくるのは彼への猜疑心。あんなに知りたいと思ってた人なのに。



彼を信用していい根拠なんてない。
私は騙されているかもしれない。


もし彼が、
私を残したまま戻らなかったら?
さっきの男らを連れて戻ってきたら?


どんどん憶測を塗り重ねて、頭の中が混乱していく。


逃げよう。


私は足を引きずり、ドアへと向かった。



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