君の知らない空
♯4 懐かしい記憶
◇ 5月の風
「眩しい……」
思わず、手を翳した。
視界いっぱいに広がる光に、今にも飲み込まれてしまいそうになる。
「橙子、あんまり前に行くと危ないって」
引き留めるように固く手を握って、桂一が笑う。
目の前には穏やかな海。
真っ青な空の色をもかき消してしまいそうなほど、目一杯の日差しを受けた波が目映くて目を開けていられない。
「すごいね、意外と揺れないんだ」
「大きい船だからね、だって披露宴も出来る豪華船だし、そんなに揺れたら食事どころじゃないだろ」
と言った桂一の向こう側のデッキを過る若い男女。とくに女性に目が留まる。
きっと、私と年は変わらないだろう。
空の色に負けないほどの濃い青色のドレス、結い上げた髪に煌めくティアラ。
煌めく波をバックに、満面の笑みの二人は幸せに包まれている。
たくさんの人に囲まれて写真を撮ってもらう二人は本当に綺麗で……
見惚れてしまいそうになるのをぐっと堪えて、私は空を見上げた。
青い空を舞う風の薫りが、初夏を感じさせてくれる。
今日は、私の22歳の誕生日。
桂一が無事に就職して初めて迎えた誕生日だからって、奮発して豪華船でのランチクルーズだ。
霞駅からずっと浜手にある霞港から出港した豪華船シャイニングパールは、霞港周辺の風景を楽しみながらコース料理を頂くことが出来る。船上ウェディングや披露宴、パーティなども出来るらしい。
この船の存在は以前から知っていたけど、実際に乗るのは初めてだったから私は嬉しくてはしゃいでた。