君の知らない空
ぼんやりとした視界に映る煌めきは、あの日見た海によく似ていた。
窓から射し込む朝の光を受けて、天井が眩しいほど白さを増している。
夢を見ていた。
幸せだった頃の桂一と私。
ベッドに横たわった私は、天井を見つめたまま夢の余韻を追いかけていた。
ふと部屋のドアが開く。
「橙子、もう7時だけどどうするの? 今日は仕事休み?」
僅かに開いたドアの隙間から、母が眉をひそめて覗いてる。
「ん……もう7時?」
枕元の携帯電話を見たら、6時にセットしていたアラームが止まっている。アラームの音を聞いた覚えも止めた覚えもないのに、いつの間に……
「足痛いんでしょう? 金曜日だし、今日は休んで病院行ってきたら? 骨折れてたら大変よ」
ああ……足痛いんだ。
起き上がって見たら、くるぶしの周りが腫れ上がってる。触れた痛みが、昨夜の出来事を思い出させる。
あれは夢じゃなかったんだ。
昨夜帰宅したら、12時数分前。とっくに寝てるてと思っていた母は、ちゃんと起きて待っていた。怖い目で睨んでいたから怒られると覚悟していたけど、さほど怒られずに済んだ。
足を引きずる私にどうしたのかと訊ねるから、
「駅で階段を踏み外した」
と答えたら、ぷっと吹き出した。
そのおかげか、遅くなったことは追及されなかった。
「ほんと、橙子はドジよねぇ……お母さんは踏み外すなんて絶対しないのに」
母に散々バカにされたけど、私はそれ以上何も言わなかった。