君の知らない空


ぼんやりとした視界に映る煌めきは、あの日見た海によく似ていた。
窓から射し込む朝の光を受けて、天井が眩しいほど白さを増している。


夢を見ていた。
幸せだった頃の桂一と私。


ベッドに横たわった私は、天井を見つめたまま夢の余韻を追いかけていた。


ふと部屋のドアが開く。


「橙子、もう7時だけどどうするの? 今日は仕事休み?」


僅かに開いたドアの隙間から、母が眉をひそめて覗いてる。


「ん……もう7時?」


枕元の携帯電話を見たら、6時にセットしていたアラームが止まっている。アラームの音を聞いた覚えも止めた覚えもないのに、いつの間に……


「足痛いんでしょう? 金曜日だし、今日は休んで病院行ってきたら? 骨折れてたら大変よ」


ああ……足痛いんだ。


起き上がって見たら、くるぶしの周りが腫れ上がってる。触れた痛みが、昨夜の出来事を思い出させる。


あれは夢じゃなかったんだ。


昨夜帰宅したら、12時数分前。とっくに寝てるてと思っていた母は、ちゃんと起きて待っていた。怖い目で睨んでいたから怒られると覚悟していたけど、さほど怒られずに済んだ。


足を引きずる私にどうしたのかと訊ねるから、


「駅で階段を踏み外した」


と答えたら、ぷっと吹き出した。
そのおかげか、遅くなったことは追及されなかった。


「ほんと、橙子はドジよねぇ……お母さんは踏み外すなんて絶対しないのに」


母に散々バカにされたけど、私はそれ以上何も言わなかった。



< 130 / 390 >

この作品をシェア

pagetop