君の知らない空

車のドアの開閉する音が響いた。


そっと顔を上げたら、病院の玄関前に横付けされた真っ白に輝く大きなセダンタイプの車。その後ろには真っ黒なワンボックスの車。


白い車の後部座席から降りてきたのは、若い男性。シャツに細身のパンツ姿だけど、小綺麗身なりが何となく品があるように思える。


この人、どこかで見たことあるかも?


彼の目鼻立ちの整った容姿に見入ってたら、黒いワンボックスの車から厳めしい男性が降りてきた。長身で厳つい男性が、いかにも邪魔だと言わんばかりの顔で睨みつける。


思わず、肩をすくめた。
ごめんなさいと言う素振りで軽くお辞儀すると、厳めしい男性はくるりと背を向ける。


そして、綺麗な顔の彼と数人の男性は病院の玄関へと向かう。


彼が目の前を通り過ぎた時、ふわっといい匂いがした。嗅いだことのある上品で甘い香り。でも決して嫌味な甘さじゃない。


記憶を手繰り寄せたら、美香の姿が浮かんだ。


そうだ、美香の車と同じ匂い。


ということは、美香の彼氏?


可愛い美香には確かにお似合いだ。
江藤も男前だけど、こっちの彼の方がよほど品があるように見える。


あ、でも……
美香の彼氏じゃないかもしれないんだ。
美香の……兄弟?


そんなことを考えながら、病院の中へと入っていく彼氏の背中を見送っていた。
もう診察の受付時間はとっくに過ぎているし、一見どこか悪いようには見えないのに……と疑問を感じながら。



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