君の知らない空

病院前の大きな通りに面したバス停からバスに乗り、駅に向かう。


バスの車内が空いてたおかげで、座ることが出来た。
ほっとしたら眠くなってきて、ついウトウトしてしまう。車窓を眺めながら、記憶が途切れてく。


かくんと頭が垂れた衝撃に、驚いて目を覚ました。


すごく寝入ってた気がする。
いや、完全に寝てた。


バスは霞駅を通り越して、ショッピングモール前のバス停を出たばかり。


しまった、乗り過ごした。
早く帰りたかったのに……


次のバス停で降りよう。
と、思ったら車内アナウンス。


「次は、第一埠頭……」


バスは霞港に向かっている。
停車ボタンに伸ばそうとした手が、自然と止まった。


第一埠頭には、主に国内を運行する定期船が接岸している。


やがて車窓からは倉庫などの建物が目につき始め、景色は港らしくなっていく。


窓は閉め切ってあるはずなのに、潮の香りが鼻に触れるような……
胸でざわめくのは、懐かしさに似ている。


倉庫を抜けると、錨などのモニュメントの点在する広々とした公園。
海側を向いたベンチが等間隔に並んでいるけど、誰も座っていない。
きっと平日だからだろう。休日には見渡す限りカップルばかりだというのに。


次は中央ターミナル、霞港を周遊する遊覧船専用のターミナルだ。
かつて桂一と乗った豪華遊覧船シャイニングパール号は、この東岸突堤が専用バースになっている。


東岸突堤には煌びやかな大きなホテルがあり、その前に接岸する姿は絵のようで綺麗だった。
それは、あの日の記憶の欠片。


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