君の知らない空


エスカレーターは海側の大きな窓に沿って、緩やかに上っていく。
一面の窓の向こう側には煌めく波。


波間に浮かぶ遊覧船が揺らいでいる様子が、まるで自分が揺れているように感じられて手摺りに手を掛けた。


徐々に2階のフロアが見えてくる。


1階よりも天井は低く、閑散としたフロアに点在するのはベンチというよりもソファーと呼んだ方がふさわしい存在感がある。


売店などが見当たらないからか、税関などがあると知った先入観からか、そこは厳かな空間にも思える。
税関らしきカウンターは閉まっているようだ。


人の姿なんて見当たらない。
何気なくフロアを眺めながら、エスカレーターを上ろうとして足が止まる。


フロアの隅の壁際に並んだベンチ。
そのひとつに座る二人の男性に、思わず見入ってしまう。


二人ともワイシャツにスラックス、傍にはアタッシュケースをもたせ掛けている。一見すると、サラリーマンが休憩しているようだ。


でも……


一人は手にした書類を投げ出すように膝に置き、背もたれに体を預けて目を閉じたまま動かない。
眠っているのだろうか。


もう一人もぼんやりと書類を見つめているのか、眠っているのか……
と思ったら、ベンチのひじ掛けに置いた缶コーヒーに手を伸ばして、ぐいっと飲んだ。


飲んでる彼が、こちらを向いて目を見張る。


うそ……


桂一?


桂一は隣の男性に何やら声を掛け、私に駆け寄ってきた。



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