君の知らない空


「足、どうした? 何でこんなとこに来たんだ?」


桂一は本当に驚いた顔で、私を見つめている。


私だって驚いてるんだ。
まさか、こんな所で桂一に会うなんて思いもしなかったんだから。


たまたまバスを乗り過ごして、霞港に来てしまっただけなのに。
霞港なんて、あの日以来なのに。


「あ、足は昨日の帰りに駅の階段踏み外して……さっき病院行ってきたら捻挫だって言われて」


くいっと左足を前に上げて見せたら、桂一は顔をしかめた。


「それ本当に捻挫か? で、そんな足で何でこんなとこに来てるんだよ、病院は逆方向だろ?」


確かに、桂一の言うとおり。
だけど故意に来たんじゃない。
これは事故、ハプニングなんだ。


何だか分からないけど、一方的に責められてるような気分。何にも悪いことしてるわけじゃないのに……だんだんと苛ついてくる。


「霞駅で降りるつもりだったけど、寝てたら乗り過ごしたの! 桂だって、どうしてこんな所にいるの? 仕事?」


言い返したら、桂一が顔を引きつらせた。きゅっと噤んだ口元が、僅かに震える。


桂一の顔を覗き込んだ。


「ああ、仕事。当たり前だろ? 遊びじゃないんだよ」


開き直るような、わざとらしい態度。


何なの?
妙な違和感を感じずにはいられない。


「仕事? サボってたんでしょう?」


声を潜めた。
同時に、お腹がきゅうっと鳴る。


慌ててお腹を押さえたら、桂一がぷっと笑った。



< 136 / 390 >

この作品をシェア

pagetop