君の知らない空
込み上げてくる懐かしさを誤魔化すように、私は口を尖らせて反論した。
「だって、振替バスはいつ出るか分からないし、歩いた方が早いと思ったから」
「あのな、夕霧駅から月見ヶ丘駅まで電車で10分掛かるんだぞ? 電車は時速何キロだ? 歩く速さとは全然違うって普通は気づくだろ?」
桂一は笑ってる。
何も感じないのだろうか。
もう、何とも思っていないのだろうか。
「でも歩いてる人もいたし、歩けると思ったんだから……」
「歩いてるのは職場が近い人だろ? 歩けるわけないって、こんなに暑いし距離を考えたら……そりゃあ二駅でダウンするよ」
私の反論をことごとく笑い飛ばしながら、桂一はハンドルを握り締めてる。懐かしい横顔は昔と変わらない。
「はいはい、ありがとう。桂に見つけてもらって、ホントに感謝してるよ」
感謝の言葉を待っていたかのように、私をちらりと見て微笑んだ。