君の知らない空

桂一はターミナルビルの2階に居た。
仕事の途中で休憩のために立ち寄ったなら、2階に上がらなくても1階でよかったのでは?
1階のベンチはどこを選んでもいいほど、空いていたのだから。


単にサボっていただけ?


「桂は、どうして2階にいたの?」


堪らず尋ねた。
桂一の顔が引きつる。


「ああ、仕事……一応営業、だからさ」


明らかに不自然な、おどおどした態度。
何か隠してる?


「営業? 何の? ホントはサボってたんじゃないの?」


「違うって、先輩と一緒に待ってたんだ!」


桂一は、慌てて口を噤んだ。
しまった、と顔に書いてある。


そんな顔を見て、私は意地でも吐かせたくなった。


「誰を待ってたの? こんな所で?」


ますます困った顔で、首筋を掻きながら口元を震わせる。


「もう、どうでもいいだろ!」


言い放って、桂一が立ち上がった。


傍らに置いていたバッグが真っ逆さまに落ちていく。
スローモーションのように映るのに手を伸ばすこともできず、バッグは床に叩きつけられた。


「あーあ、もう……」


見事に床に散らばったバッグの中身を見下ろして、桂一が大きく息を吐く。


怒ってる?


ちらっと見上げたら、桂一はふっと笑う。


「俺がちゃんと閉めてなかったから悪いんだな」


と言って、屈み込んだ。
責められないのが、逆に辛く感じる。


桂一は黙って、バッグを取り上げる。
私も足元に散らばった書類に手を伸ばした。



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