君の知らない空


こんなにバラバラのままバッグに入れないで、バインダーに挟んで入れたらいいのに……って、つい言いたくなる。


取り上げた書類のうち、数枚に目が留まった。


文書の中に写真が載っているというよりも、写真の貼った合間に少ない文字が書いてある。
貼り付けられた写真のすべてが、人物を遠巻きに写していたり、人の顔のアップ。


どこか不自然に感じられるのは、写っている人がカメラ目線じゃないから?


一番上の紙には、若い男性の横顔。
写真の下には『周舜羽』と書いてある。
何て読むのか分からないけど……
これって、中国人の名前?


その下には、
『180cm前後、細身、口元にホクロ……』
確かに写真の若い男性の口元には、小さなホクロがある。
そして身長と体型?


これは何?


不思議に思いながら、手にした紙をめくった。


え?


ドクンと胸が大きく鳴った。


その瞬間、私はここから遮断された別の空間に放り出されたような気がした。息をするのさえ忘れてしまうほど、固まっていたんだと思う。


紙を握った手が、小刻みに震え出す。


どうして?


私の目に映っているのは、さっきの写真と同じ年頃の若い男性。
俯き気味の顔を斜めから撮った写真と、ショッピングモール前を歩く姿を遠巻きから写した写真。


どんなに見つめ続けても、写真の男性の顔も姿も変わらない。


私は彼を知っている。


彼の名は、小川亮。


だけど、写真の下に書かれた名は私の知らない名だった。


『杜亮維』



< 143 / 390 >

この作品をシェア

pagetop