君の知らない空


まっすぐな目で、桂一が見てる。


「だから、私は知らないって言ってるでしょ? 機密なら、私に見られてマズイものなら、早く片付けたらいいじゃない」


私は唇を尖らせた。


ホントは動揺してるけど決して表には出さないように、絶対に顔に出さないように。細心の注意を払って。


私は、上手く交わしていたはずだった。


桂一が目を伏せて、大きく息を吐く。
苛立ちをすべて吐き出すように。


それを見ていた私も、肩の力も抜けていく気がした。安心感とは違う思いが、胸の中に浮かんでいる。


「ごめん、いいよ。俺もちゃんと話してないし、橙子が知ってても知らなくても……誰を好きになろうと、もう俺には関係ないし」


冷たい風が、吹き抜けてくような感覚。


何なの、その言い方は?
拗ねてるの?


桂一が紙に視線を落とし、もう一度溜め息を吐いた。何も話せなくなる。


いつの間にかフロアには、ちらほら人の姿が見える。
シャイニングパール号の受付窓口が開いている。サンセットクルーズの受付が始まったようだ。


「ごめん、そろそろ帰るよ」


と言ったら、桂一が慌てて紙をバッグの中に片付ける。


「約束だから、送ってくよ」


立ち上がった私のバッグを取って、桂一が見せてくれた笑顔はぎこちない。
それでも、桂一の優しさは十分感じることが出来たから。


「ありがとう」


私も今、伝えることのできる精一杯の笑顔で返した。


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