君の知らない空
助手席で待っている間、ずっと気になってたのは後部座席に置かれた桂一のバッグ。
もう一度、写真を見て確かめたい。
でも、桂一がいつ戻るか分からない。
見つかったら何を言われるか、と思うと動けなかった。
そうしている間に、車の横を自転車が通り過ぎた。
私の自転車に跨った桂一。
車の前に自転車を停めて、助手席側へとやって来る。
私がドアのロックを解除すると、そっとドアを開けた。膝に載せた私のバッグを取り上げて、松葉杖を片手にエスコートしてくれる。さも当たり前のように。
「家まで送ってくよ」
と言って、私の返事も待たずにエンジンを止めて車をロックする。
あんなに言い争ったのに、どうしてこんなにも優しいんだろう。
昔と変わることない桂一の優しさに、安心感を覚える。
自転車に手を掛けた桂一が歩き出そうとして、ふと足を止めた。
「橙子、さっきの話……」
言いかけた言葉を濁す。
私は黙って、続きを待っている。
もう、決して余計なことは言うまい。
「橙子にも言いたいことはあるだろうけど、黙って俺の話を聞いてほしい」
私は大きく頷いた。
同時に、桂一の言葉を聞き漏らさないようにと身構える。
安心したように小さく頷き返して、桂一は口を開いた。
「詳しくは言えないけど、もしあの写真の中に知り合いがいるなら、あまり関わらない方がいい」
寂しげな目で口にした言葉は、ずっしりと重く胸を締め付けた。
確信を伴って。
やっぱり桂一は彼を知っている。