君の知らない空
「月曜日の朝、7時30分にここで待ってるから。それと何かあったらすぐに連絡して、俺はいつでも大丈夫だから」
と、桂一は言った。
力強い口調で。
本気で会社まで送ってくれるらしい。
すごくありがたいし、気持ちは嬉しい。
だけど、複雑だった。
何で、そんなに優しくするの?
優しくされるのは嬉しい。
でも、私たちはもう恋人ではない。
半年経ってようやく、前に進み始めたのに。自立とはちょっと違うけど、踏み出した気持ちが戸惑ってる。
私の胸の中の大半を占めていた桂一との思い出。やっと手放そうと決めたのに、ぐらりと気持ちが揺らいでしまう。
もしかしたら、
また桂一と一緒に……
って、単純な私は考えてしまう。
でも、
私の中にはもうひとりの男性がいる。
彼のことは何も知らないけど、
本当の名前も分からないけど。
それでも彼のことを知りたい思いは、消えることなく確かに胸の奥にある。
私を家の前まで送って、桂一が戻っていく。
何度も振り返り、手を挙げる姿が付き合ってた頃を思い出させる。
同時に私には、桂一の後ろ姿と彼の姿が重なって見えた。