君の知らない空
◇ 行き詰まる思い
月曜日の朝、家の近所の公園に桂一の車が停まっていた。
桂一は車を降りて、私の家の門の傍で待っていたから驚いた。
朝早く、こんな所にいたら怪しまれそう。と思ったのが顔に出てしまったのか、私と目が合った桂一が辺りを気にしてる。
「おはよう」
誰もいないのを確認して、桂一が微笑む。
「おはよう、ありがとう」
何だか可笑しくて、笑いそうになりながら返した。
桂一は私の手から、するっとバッグを取り上げた。私に歩幅を合わせて車まで歩いて、助手席のドアを開けてくれる。
どうして、こんなに優しいの?
ますます気持ちの整理が出来なくなっていく。
車は走り出した。
朝はやっぱり車が多くて混んでる。とくに私の職場のある方面、月見ヶ丘駅の浜手は工業地帯だから。
渋滞や信号に捕まる車内、話すこともなく沈黙が重苦しくのしかかる。
黙って運転する桂一の横顔を見ながら、心の中で大きな溜め息を零した。
「どう? 足はよくなってきてるの?」
不意に桂一が振り向く。
「うん、痛みも腫れもマシになってきたよ。明日からは一人で行けそうだから」
と言ったら、桂一は口を尖らせる。
「ばか、遠慮するなよ。
しばらく送るって言っただろ?
帰りも送るよ、ここで待ってる」
桂一が、職場近くの道路の端に車を停めた。ハザードランプを点けて降りようとするのを、慌てて制止する。
「ありがとう、大丈夫、一人で行けるから」
「気をつけろよ、帰りもここにいるから」
にこっと笑った桂一の顔が、眩しかった。