君の知らない空
出社した私を待ち構えていた優美が駆け寄ってくる。すごく驚いた顔をして。
優美だけじゃない。
私に気づいた事務所の人たち、みんながこっちを見てる。髪を切った時とは違う、何やら不審な目をしている。
「おはよう、大丈夫? どうしたの?」
優美が目を見開いて、私の全身を舐めるように見つめる。
「捻挫、あの帰りに駅の階段で踏み外したの」
母に言ったのと同じことを話した。
だって、こっちを見てなくても周りの人の耳は絶対にこっちに傾いてる。何があったのか興味あるに違いないから。
「ええっ! 結構飲んでたもん……今日はどうやって来たの? それで電車乗ってきたの?」
「ううん、今日は送ってもらった。帰りも迎えに来てもらえるから大丈夫」
笑って返したら、優美がほっとした顔をする。
心配かけて申し訳ない気持ちと本当のことを話したい気持ちが、胸で疼いてる。
「よかった、そんなので電車なんて危ないよ、当分送ってもらいなよ」
「うん、そのつもり」
そうか、当分は桂一と毎日会うことになるんだ。
「それじゃ、当分ジムには行けないね」
「うん、仕方ないよ……」
事務所の入口から入ってくる美香の姿が見えた。目が合ったから笑うと、会釈してやってくる。
「おはようございます、橙子さん? どうしたんですか? 骨折? ですか?」
美香が私を見るなり、声を上げた。
「捻挫、駅の階段で踏み外したの……」
今日は聞かれる度に、この説明しないといけんだろうなぁ……と笑いながら思った。