君の知らない空

優美が去った後、喉が渇いたからリフレッシュコーナーに行った。自販機を睨みつけながら、どのボタンを押そうかと指を泳がせる。


うん、やっぱり朝はコーヒーかな。
ボタンを押して取出口へと視線を落とす途中、何かが視界を過った。


顔を上げると、ガラス越しにひょっこり覗いた顔。江藤だ。


「高山、ちょっといい?」


って、私の返事も聞かずにやって来る。周りを気にしながら。


「その怪我さ、本当に階段で踏み外したのか?」


江藤が声を殺した。


「え? うん、そうだけど?」


私が答えると、首を傾げて再び周りを見回す。間近で見ても頬の傷は、あまり気にならないぐらい治ってきている。


「ホント? 実は誰かに突き落とされたとか……じゃないよな? 誰にも言わないから正直に言ってよ」


江藤が怖い顔をして迫る。何を言いたいのか分かりそうなのに、分かりたくない気持ちがかき消そうとしている。


「そんなこと誰にもされてないよ? 本当に自分でやったんだってば。江藤? 何が言いたいの?」


すると江藤は目を逸らして、唇をきゅっと噛んだ。ためらいがちに小さく息を吐いて、


「俺を殴ったヤツ、白木のダチかもしれないんだ。もしかしたら高山も……って思ったんだけど、どう?」


それはまさに、おおよそ予想はしていたけど信じたくない答え。
オバチャンの推理どおりの。


「いや、私は違うって。でも……関係ないかもしれないけど、江藤が殴られた夜に私、ひったくり未遂に遭ったんだ」


「マジ?」


江藤が顔色を変えた。


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