君の知らない空

「それも、白木がヤらせたんじゃないのか?」


低い声で言った江藤が目を逸らした。周りに誰もいないことを確かめるためだろう。


「なぁ? 嫌かもしれないけど思い出してみろよ、そいつら、どんなヤツだった? 白木の名前出してなかったか?」


「覚えてないよ、暗かったから顔も見えなかったし、無言だったし……それに、あの日は美香と私は一緒に食事してたんだよ? 帰りも美香が駅まで送ってくれたし……美香は関係ないよ」


美香じゃないと信じたい。
言い返したら江藤はくるりと窓へと振り返り、項垂れて唸ってる。


「江藤はどうして、絡んできた人が美香の友達って分かったの? たまたまバッグが当たったんじゃなかったの?」


「ああ、俺を狙ってたんだ。そいつらが俺に絡んできた時に『白木さんにちょっかいを出すな』って言ってたし、まだ何にもちょっかいを出してないのにさ」


さらりと答えて、口を尖らせる。いかにも自分は悪くないと言わんばかりに。


いやいや、ちょっかいを出してなくても十分色目を使ってたと思う。
それが誤解されたのかも?


「ちょっかいって何してたの? まさかストーカーみたいなことしてたの?」


ちょっと大袈裟に言ってやったら、焦り出す。


「バカ言うなよ、俺がストーカーなんかすると思うか? 俺はいつでも直球勝負だよ」


「直球って、何なのよ……で、何て答えたの?」


「ちょっかいなんて出してない、可愛い同僚の一人だ。って言ってやった」


江藤は偉そうな態度、懲りた様子など全く見られない。


するとガラスの向こう側の廊下から、誰かが近づいてくる。


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