君の知らない空


リフレッシュコーナーの扉の取っ手に手を掛けて、ニコッと笑いながら入ってきたのは課長だった。


「珍しい二人がいるね、どうしたの? 二人とも怪我は大丈夫?」


と言いながら、自販機にお金を入れて迷わずボタンを押した。屈んで取り出したのはペットボトル入りの無糖の紅茶。
いつも課長の机の上にあるのと同じだと思って見ていたら、江藤が軽く一礼した。


「あ、ありがとうございます。俺はもう大丈夫です。そうだ、課長。経理部長が今月末で退職らしいですね」


課長は小さく頷く。


「ああ、一身上の都合らしいね。最近は早期退職でのんびりしたいという方が多いらしいね、私ももう少ししたら考えようか」


淡々とした口調で冷ややかに笑う。
私も……って言いながら、まるで他人事のようだ。


「高山さんも災難続きだね、仕事も無理しないように、お大事に」


こんなことを思ってはいけないのだろうけど、本心から言ってくれてるようには思えないあっさりした口ぶり。


「はい、ありがとうございます」


ぺこりと頭を下げている間に、課長はリフレッシュコーナーを出て行った。


「しかし最近、部長や課長の入れ替わりが激しいよなぁ? 次は誰だろう?」


そういえば最近、部長や課長クラスの入れ替わりが頻発に思える。


「課長も4月に替わってきたばかりだもんね。調達部長も一緒に替わったんだ。4月って他にもいたよね?」


「そうだ、システム部の部長。その前が年初の総務部長と秘書課の課長だったよな?」


社員数は約100人ほどの会社、今までこんなに入れ替わることなんてなかったのに。


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