君の知らない空
「ま、たまたま退職の時期が重なっただけかもしれないしな。それよりも、白木のこと気をつけた方がいいぞ」
再び窓の方へと振り返り、江藤が声を殺した。
「気をつけるって、どう気をつけたらいいのよ? もう訳が分かんないよ」
「俺もよく分からないけどさ、指導してやった高山を襲わせるんだから恩義も感じてないのかもな、寝首を掻かれないように注意しろよ」
江藤は自分が絡まれたことも、私のひったくり未遂も、美香の仕業だと思い込んでいる。オバチャンと全く同じだ。
まだ私は信じたくないけど、江藤の話が事実なら美香がさせたことに間違いないのだろう。
「ありがとう、わかったよ、気をつける。江藤ももうちょっかいを出すのやめなよ」
美香に色目を使ったから襲われたのなら、また今度同じことをしたらもっと酷い目に遭うかもしれない。だったら誤解されないためにも、美香には関わらない方がいいのかも。
「分かってるよ、ありがとうな」
ぺろっと舌を出した江藤は、やっぱり男前だと思った。
リフレッシュコーナーを出て行こうとして、江藤が振り返る。
「高山、俺が話したこと内緒な、分かるだろ?」
「うん、分かってるよ、お互い気をつけようね」
江藤はひらっと手を振って、事務所へと戻っていった。
私も戻らなくちゃ、ずいぶん話し込んでしまった。オバチャンが目を光らせてるかもしれないし……怖い怖い。