君の知らない空

席に戻って仕事を片付けてたら、だんだんおかしな雰囲気に気がつき始めた。職場全体ではなく、局所的に空気が淀んでいる感じ。


それはまるで、美香を中心に突き刺さるように注がれるオバチャンの視線。


とくに何かをしている訳ではないが、視線は無言の圧力となって圧し掛かり、周りの空気まで重苦しく歪めている。


息苦しさに耐えきれず、優美の席に助けを求めに行った。


「優美、この空気はいったい何なの? 金曜日にメールくれた時に怖いって言ってたのは、コレ?」


「そう、怖いでしょう? 白状しないから制裁だって。関わらない方がいいよ……って、橙子は難しい立場だね」


優美が不憫そうな顔をして首を傾げる。


オバチャンは怖いけど、美香を放ってはおけない。だからといって、オバチャンに面と向かって言える勇気もない。


「美香に彼氏がいるかいないかなんて、どうでもいいのに……」


ふぅと溜め息を吐いたら、


「橙子、違うよ。美香が江藤を襲わせたのか、そこが問題なんだよ?」


と優美が険しい顔で覗き込む。


さっき、江藤は絡んだ男たちが美香の名前を言ったと話してたけど……だったら今、美香に意地悪しているオバチャンも何らかの報復があっても不思議じゃないのかもしれない。


「江藤が美香にちょっかいを出してたから、美香が江藤を襲わせたんでしょ? オバチャンも美香に意地悪してたら、何かされるんじゃないの?」


私は自分で言ってて怖くなった。
そんなこと絶対にありえないと、胸の中で何度も繰り返す。


振り向いたら、美香は自席で書類を片手にモニターを見つめていた。


< 161 / 390 >

この作品をシェア

pagetop