君の知らない空
#5 迫り来る不安
◇ 元カレの仕事
霞駅のショッピングモール近くのファミレス、桂一と私は窓際の席に座っている。テーブルの上に置かれたグラスは並々と水を湛え、大きな氷が悠々と浮かんでいる。
それを見つめる私の目の前で、桂一が溜め息を吐いた。
きっと何から話そうかと、悩んでいるのだろう。私には黙って待つことしかできない。
ひとつ分かっていることは、桂一が美香を知っているということ。でも美香に対して恋愛感情があるわけではないこと。
だからこそ、どういう関係なのか余計に気になってしまう。内心ほっとしているのは事実なんだけど。
桂一がすべてを打ち明けてくれるなら、小川亮と名乗った彼のことも、桂一が彼の写真を持っていた理由も教えてくれるかもしれない。
いろんな不安と期待が巡り、胸の中が苦しくなる。黙っているのが、こんなにも辛いなんて。
「お待たせしました」
重苦しい沈黙に割り込んで、ウェイトレスがテーブルに皿を置いた。皿から立ち上る湯気の向こうで、ウェイトレスがちらりと私の顔を見る。
私が顔を上げると、彼女は慌てて目を逸らして去っていった。
きっと桂一と私が、別れ話をしているとでも思っているのだろう。
まぁ、そう思われても不思議ではない空気を私たちは醸し出している。
現に桂一と私が別れ話をしたのは、このレストランだった。あの時と席は違うけど。
別れ話をした日へと、思いを馳せようとする私を桂一が引き止めた。
「とりあえず食べようか」
桂一の笑顔は、いかにも作られたような笑顔に見えた。