君の知らない空
会話もないまま私たちは、時折窓の外を過る車のライトを眺めながら黙々と終えた。
「橙子、仕事はどう?」
不意に呼び掛けられて、正直戸惑った。そんなこと聞かれるなんて思ってないし、答えなんて用意してない。
「え、どうって……普通かな、良くもなく悪くもなく……だけど」
とりあえず、そう答えるしかないだろう。
すると桂一はテーブルに肘をついて、また一つ溜め息を吐いた。
「今の仕事、辞める気ある?」
予想しなかった言葉に、私は一瞬固まって声も出すことが出来なかった。
急に何を言い出すの?
もしかして転職への誘い?
「何? 辞める気なんてないけど、何か他にいい仕事でもあるの?」
冗談混じりに聞いてみた。
もちろん、今の仕事を辞める気なんて全くない。他に条件がいい仕事があるとしても。
今まで約5年間かけて築いてきた経験と人間関係を捨てて、一から始める勇気なんて私にはない。
それに新たに始めたとして、オバチャンのような人がいたら上手くやっていける自信もない。
「そうじゃなくて、もし、仮に会社が潰れたり、クビになったとしても、橙子なら大丈夫だよな? 新しい仕事に就いても上手くやっていけるよな?」
桂一は控えめな声で言った。
しかも頬杖をついた手で口元を隠すようにしているから、聴き取りにくい。
「何なの? それって、どういう意味? 私がクビになるかもしれないの? 何で桂が、そんなこと言えるの?」
聞き返したら、桂一は首筋を掻きながら首を傾げた。困った顔をしてる。