君の知らない空
「まあ、それは俺も同じだからな。実は白木のことで、ちょっと気になることがあってさ」
ドキッとした。
江藤が会社の乗っ取りのことを知ってるはずはないし……誰かから聞いたのだろうか?
「どうしたの?」
「俺に絡んだヤツが、白木の名前を言ったって話しただろ? よく考えたらおかしいと思ってさ……名前なんか出したら白木がヤらせたって思われて当然だろ? それなのに何で名前なんか出したのかと思って」
「だけど、理由も言わないで襲ったら何のことか分からないからじゃないの? もし美香が襲わせたのだとしても、自分に構うなって言いたかったんでしょ?」
「だけどさ、変じゃないか? 名前なんて出すかなぁ……同じ職場内なのに誰か分かったら気まずくなるどころか、普通は会社に居られなくなるだろ?」
「江藤は、美香が襲わせたんじゃないって思ってるんだ」
「うん、いろいろ考えてるうちに白木が指示したんじゃなくて、他の誰かが襲わせて、白木の名前を出すように指示したんじゃないかと俺は思ったわけ、な? どう思う?」
江藤の言うことは納得できたし、確信が持てた。やはり美香は悪くないと。
私が美香を庇っているからじゃなくて、あえて自分に不利になるようなことをするはずがないと思えた。
「だったら江藤が狙われてたんじゃなくて、誰かが美香を陥れようとしてるってこと?」
「ああ、きっと社内の誰かが白木を会社に居られなくするようにしてるのかもな、何のためかは分からないけど」
江藤の低い声はずっしりと重く、胸の奥に突き刺さる。得体のしれない恐怖が潜んでいるように思えて。