君の知らない空
江藤も私も携帯電話を手にしたまま、黙り込んでしまった。言いようのない恐怖と不安の波が押し寄せる。
「いや、もしかしたら俺に気がある社内の女の子がさせたのかもしれないしなぁ」
と、江藤がカラッと笑う。
それもあり得ない話じゃないけど、この場合は違うと思う。
でも、嫌な沈黙を断ち切ってくれ江藤には感謝しなければ。
「私がひったくりに遭った時は美香の名前とか言わなかったけど、それも関係あるのかなぁ?」
「あると思うぞ、白木と食事行った帰りだろ? 高山と白木が一緒に行く所を見てたのか、後をつけてたんじゃないか?」
江藤に言われて背筋が寒くなった。
美香と食事をしながら話していた時も、誰かに見られていたのかもしれないと思うと気味が悪い。
「気持ち悪……でもさ、美香を陥れたいなら何で美香を襲わないんだろ?」
「ん……何でだろなぁ? 直接襲えないとか、言えないとかいう理由があるのか? それとも白木が自分から会社を辞めるように仕向けたいとか?」
それは美香が、会社を乗っ取ろうとしている人物の娘だからだろうか。
「単に美香を会社から遠ざけたいだけ? 危害を加えたりするんじゃなくて、会社から出ていってほしいのかも……」
「犯人がオバチャンではないことは確かだな、だって俺はオバチャンに好かれてるはずだから、怪我させるはずないだろ?」
「まあ、それはそうだね」
江藤の言うことは当たってる。
オバチャンは基本的に若い男の子には優しい。特に男前で気さくな江藤は気に入られていて、オバチャンからはよくお菓子を貰っている。
だから美香を辞めさせたくても、江藤に危害を加えるようなことは絶対にしないだろう。