君の知らない空
「ごめん、ねぇ、江藤? 美香に聞いてよ? どうして入社しようと思ったのか、江藤なら話してくれるかも」
閃いた勢いで言ったら、電話の向こうの江藤が戸惑ってるのが分かる。
「は? 何で俺が? そういうことは女同士の方が話しやすいんじゃないのか?」
江藤が慌てて答えるけど、気にするものか。
美香が江藤のことを好きかもしれないと言ったのが本当なら、江藤と二人なら何か打ち明けてくれるかもしれない。
「そんなことない、江藤だから話してくれるかもしれないよ、だって江藤は優しいから」
「そりゃあ俺は優しいけどさ、職場で声なんか掛けたらオバチャンが何するか分からないだろ? リフレッシュで話してるとこ見られたり、聞かれたりしたらどうする?」
私の思いつきを冷静に受け止めて、江藤が答える。確かに社内では誰が見てるか聞いているか分からないし、余計に美香に不利になるようなことになっては意味がない。
「なら、仕事終わってから食事でも行こう。こっそり外で待ち合わせるなら大丈夫じゃない?」
電話の向こうで、大きな溜め息が聞こえた。
「分かったよ、でもさ……白木と接触してるのがバレたら? 今度はもっと酷い目に遭うかもしれないよなぁ……」
接触ではなく、ちょっかいを出しただけで絡まれたというのに。直接会ったりしたら……と考えたら、かなり怖い。
「私も一緒に行こうか? 」
「いや、いいわ、俺も男だからさ。白木の無実を晴らすために頑張ってくるわ」
不安を振り切るような力強い声は、頼もしさに満ちていた。