君の知らない空
江藤の行動は早かった。
翌日の午後、目覚ましにコーヒーを買いにリフレッシュコーナーに行くと、後から江藤がやって来た。
「よっ、今晩行ってくる。定時後に霞駅のショッピングモールで待ち合わせ、レストランフロアの和食屋に行く予定だから」
江藤が笑みを浮かべながら話す。
私が自販機にお金を入れると、さり気なくボタンを押してコーヒーを取り出す。
「ありがとう、間違っても覗きに来るなよ」
ぐいっと仰ぐように飲んだ江藤の声は、心なしか小さく感じられる。
やはり社内では、誰が聞いているか分からないという警戒心からだ。
しかし江藤の動作はごく自然で、リフレッシュコーナーの外から誰かが見たとしても、私たちが何かを企てているようには見えないだろう。
ましてや何を話しているのか、聞こえるはずもない。
「ありがとう、私もついて行こうか?」
「大丈夫だって言ったろ? そのためにショッピングモールにしたんだから」
少しでも見つかりにくいようにと、人の出入りの多いショッピングモールにした理由はすぐに分かった。
「何かあったら連絡してね、明日は通院だから休むけど、江藤に任せてばかりいられないから」
私は江藤のように自然に振る舞えず、顔が強張ってしまう。いろんなことを考えると、恐怖が前に進み出る。
「そうだな、連絡するかもしれないけど結果報告な、そんな足だから期待はしてないから」
江藤はニヤッと笑って、リフレッシュコーナーを出て行った。