君の知らない空
定時のチャイムが鳴り、美香が事務所を出て行く。美香は江藤に誘われたというのに仕事中は顔色ひとつ変えなかった。
でも好きな人に誘われたんだから、内心はドキドキしてたに違いない。
美香を見送った後しばらくして、江藤が出て行く。
「江藤ちゃん、今日は早いなあ」と同じチームのオジサンに言われながらも、江藤は笑顔で交わした。
私は二人が退社するのを確認して、事務所を出た。
事務所ビルの裏側の道路には、いつものように桂一が車で迎えに来てくれてる。
「明日、通院で休むから迎えに来てもらわなくてもいいよ」
車中で桂一に言った。
市民病院は午前中しか診察していない。前回診察してもらってから一週間、また休まなければならないと分かっていたなら夕方や土曜日の午前中も診察してくれる個人病院に行けばよかったのかも……と後悔せずにはいられない。
まあ、いずれクビになるなら今のうちに有給を消化していった方がいいのかな……とも思ったりするけど。
「通院? だったら送迎するよ、まだ痛いんだろ?」
大方予想出来た言葉にほっとした。
でも毎日送迎してもらうのは申し訳ないし、別れてから半年間会わなかったのに毎日会っていることが不思議に思えてくる。
「痛みはあまり気にならなくなったよ、アレ使ってるからかな? でも早く返したいよ、面倒で仕方ないもん」
後部座席の足元に横たえた松葉杖を示すと、桂一はくすりと笑った。
「そう思えるということは確かに良くなってきてるんだな、安心した」
車は霞駅の近くを通過していく。
今頃、江藤と美香は話しているのかな……と私はショッピングモールの方へと目を向けた。