君の知らない空
江藤が私の返事を待っている。
沈黙に耐えきれずに恐る恐る答えた。
「うん、一度だけ見たことあるんだ……ごめん」
「なんだ、そうかよ……まあ、オバチャンたち怖いから言えるわけないわ」
ありがとう、フォローしてくれて。
でも桂一が言ってたこととも違う。桂一は、美香が桂一の会社の社長の彼女だって言ってたのに…どちらが正しいのだろう。美香自身が言うことを信じたいけど、どうなんだろう。
「あの、他には? 美香と何か話したの?」
「ん……まあ、ちょっとだけな、高山、誰にも言わないって約束してくれよ、な?」
戸惑いつつも力強く念を押す江藤が、何か話し出そうとする。秘密にするようにと言う辺りからして、重要なことだと分かる。
「分かった、絶対に言わない」
江藤に伝わるように、私も力強く返した。
「白木がウチの会社に入ってきたのは、親父さんから離れて自立したかったからだって。つまり親離れのようなものらしい」
「親離れ?」
「美香にはお母さんがいないらしい。小さい時に離婚して、親父さんとお兄さんと三人だったそうだ。そのせいか親父さんがやたら過保護で、バイトもしたことないらしい。今も必要以上に構ってくるから距離を置きたかったって」
「そうなんだ、お母さんいないんだね。きっと、お父さんにすごく可愛がられたんだろうね」
入社した美香が、『こんな仕事は初めて……』と言ったことを思い出した。あれは職種が初めてという意味ではなく、仕事すること自体が初めてだと言っていたんだと。