君の知らない空


「美香のお父さんは何の仕事してるとか聞いた?」


「自営業って言ってた、輸出入関連の小さい会社を経営してるって。一応は社長ってことだな」


美香の言ったことは嘘ではないと思った。その会社が私の会社を乗っ取ろうとしているんだ。


「そうか……小さな会社でも社長なんだ……他に何か言ってなかった?」


「あ、オバチャンに見られるから、社内ではあまり近づくなって言ってた。自分に関わると何されるか分からないからって、俺にまで気を遣うって健気だよなぁ……」


しみじみと江藤が言う。
美香自身もオバチャンのことを気にしているようだが、本当に気にしているのはオバチャンだけなのだろうか。


江藤が襲われたことも私のひったくり未遂も、オバチャンの仕業ではないはずだ。だとしたら社内で気にするべきなのはオバチャンではなく、他の誰かなのでは? 美香はその意味も込めて、江藤に近づくなと言ったようにも思える。


「それは、オバチャン以外の目を気にしているんじゃないの? 社外ならいいってこと?」


「だろうな、実は俺、白木と付き合うことになったんだ、早速土曜日に初デートだ」


遠慮しながらも誇らしげな口調は、事態の深刻さを全く感じさせない。


「何それ? 本気? オバチャンはどうするの?」


そうか、江藤がクビになるとか会社に居られないとか言ってたのはコレだったんだ。


「そう、そこが問題。高山、絶対に言うなよ? 黙ってたらバレない。何かさ、ドキドキするよなぁ」


「どうなってもしらないから」


江藤にとって、美香と会った収穫は十分あったらしい。



< 190 / 390 >

この作品をシェア

pagetop