君の知らない空
桂一は市民病院で私を降ろして、職場へと向かった。後で迎えに来るから、診察が終わったらメールしてと言い残して。
私の会社や普通の会社ではありえない。融通のきく自由な会社、人探しの仕事、まるで探偵か諜報員を彷彿させる。考えるほど不自然だと思うけど、無理を言って桂一が教えてくれたんだ。
これ以上追及はしないし、してはいけない。
桂一の仕事の邪魔をするつもりはないけど、小川亮は見つけてほしくない。桂一に見つからないことを、私はただ祈るだけ。
彼はどうしてるんだろう。
路地裏で助けてもらって以来、姿を見ていない。ジムで泳いでいるのかな……会いたい。
それよりも、会社をクビになったら再就職出来るのかなぁ……たいした資格など持っていないから、難しいかもしれない。
長い待ち時間、いろんなことを考えることが出来た。
ようやく診察してもらい、痛みも腫れも引いてきているとのこと。サポーターだけで様子を見ることになり、松葉杖は返却することになった。晴れて自由の身になったような清々しい気分。
でも、松葉杖が無いと非常に歩きにくい。足に力を掛けられないから踏ん張りどころが分からなくて、変な歩き方になってしまうのだ。
もう少し借りててもよかったかな、やっと松葉杖に慣れてきたところだったし。
診察を終えて会計を済ませて薬を待っている間に、少しだけ病院の玄関の外に出た。玄関の傍のベンチで『診察終わったよ』と桂一にメールを送って、ふぅとひと息吐く。
ちかっと視界に閃光が飛び込んだ。
思わず目を細めると、目一杯の日差しを浴びた真っ白な車が滑り込む。