君の知らない空
ダメだ、見つかった!
一気に胸を押し潰そうとする恐怖は、夕霧駅の路地裏で怪しげな男たちに見つかった時と同じもの。
また、あの時と同じ怖い思いをすることになるなんて……
どうして、私はこんなにもついてない……いや、ドジなんだろう。
病室の中から、誰かがこちらに近づいてくる足音が聞こえてくる。
こんな所、絶対に逃げられない。と思うと同時に、勢いよく扉が開いた。
「あらー、ハルミちゃん! 遅かったじゃないの、待ってたのよ」
隣の病室から飛び出したおばさんが私の手を握って、ぐいと引き寄せる。にっこりと笑った嬉しそうな顔は、見ず知らずの私を心から歓迎してくれている。
ハルミって誰?
私は橙子ですが?
って言いたいけど、おばさんの満面の笑顔が私の口を封じているように思えた。何も喋るなと。
「ごめんなさいね、この子、私の姪っ子なんだけどね、病室間違えそうになったみたいで……ねえ、ハルミちゃんはそそっかしいんだから」
おばさんは私の肩越しに、ひょっこり顔を覗かせて笑う。
そっと振り返ると、菅野の病室から出てきた強面の男がぽかんとした表情をしている。彼も状況を理解出来ていないのか。
「すみませんでした」
とりあえず訳も分からないまま、おばさんに合わせて軽く頭を下げた。
「いや、同じようなドアが並んでるから間違えてもしょーがないわ、こっちこそすまん」
と言って、厳めしい男性は複雑そうな笑みを浮かべる。さっきまでの怒声は怖いけど、笑うと意外といい人っぽく見える。
そう思っているうちに、彼は病室へと戻っていった。