君の知らない空
「何かあったんですか?」
少しイラっとした風に聞いてみた。
本当は全然イラついてなんかいないのに。
すると電話の向こう側の桂一はいかにも慌てた様子で、
「いや、うん……あのさ……」
と言って、
ごくっと唾を飲み込む音が聴こえた。
「ごめん、橙子ちゃん……
あの……今、付き合ってる人いる?」
遠慮がちに発せられた声は、油断していると聞き逃してしまいそうなほど小さい。
でも彼の声は、
私の胸の奥深い所で眠っていたものを確実に狙い、弾け飛ばした。
そして、頭の中が真っ白になった。