君の知らない空


「よかったら、知っていることを教えてもらえませんか? もしかすると、私の知り合いが巻き込まれているかもしれないんです」


思いきって尋ねたら、おばさんは驚いた顔をする。口を噤んで迷った様子のおばさんを見つめる私は、ダメかなぁ……と思いながら答えを待つ。


「いいわよ、私の知ってる事で良ければ。但し、絶対に口外しないでね」


にこやかに笑って、おばさんは語り始めた。私たち二人しか居ない病室を見回し、声を落として。


菅野が入院したのは約1ヶ月前。病名は知らないが、顔を合わせると愛想良く挨拶してくれるいい人で第一印象は良かったらしい。
ちらりと話した時に、菅野は自分の職業を自営業だと話していたという。


やがて菅野の元には、いろんな男たちが見舞いに訪れるようになった。
しかし病室から声は漏れ聴こえることもなく穏やかで、おばさんが会話に耳を傾けるほどではなかったそうだ。
外見から職場の人たちだと思って、全く気にも留めていなかったらしい。


一週間ほど前、突然病室に大きな声が飛び交った。何事かと廊下に出てみたら、扉の付近でもみ合う男たちの姿。駆けつけた看護師らが仲裁に入り、騒動は収まったという。


「その時に見舞いに来ていた人たちは、今日来ていた人たちなんですか?」


と問うと、おばさんは大きく頷いた。


「ええ、あの人たちよ。あの日以来、毎日見舞いに来ては何やら揉めてるみたい。だから、いつもお隣に柄の悪い人が一人二人居るのよ。あの人たちを追っ払うためにね」


どうやら話の中には、おばさんの憶測も混じっているらしい。緊迫しながらも隣の病室の状況を窺っているおばさんに余裕すら感じる。



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