君の知らない空


「菅野さんは彼の父親の綾瀬と古い付き合いらしくて、綾瀬がこの辺りの会社を乗っ取ろうとしてるのを手助けしているみたいよ。それを見舞いに来てる子が邪魔してるのよ」


おばさんは、さらに話してくれた。


綾瀬が彼に邪魔をさせないために、彼の妹である美香を乗っ取ろうとしている会社に入社させたこと。美香を盾にしようと企んでいるというのだ。


美香と彼は兄妹でありながら、最近まで別々に暮らしていたらしいこと。
二人を再会させたのは父親の綾瀬だが、その後すぐに父親は行方を眩ませたという。


二人を引き離していた原因である綾瀬が、さらに美香を利用しようとしていることを知った彼は、怒りと恨みを増幅させたのだと。


なるほど、それで美香と彼は恋人と見間違えてもおかしくないぐらいに仲睦まじく見えたのか。
どうして二人は引き離されていたのだろう。綾瀬はなぜ、二人を再会させたのだろう。


「でも物騒よね……親子喧嘩に殺し屋雇うなんて尋常じゃないわ。そんなのドラマや作り話だと思ってたのに、こんな身近にあるなんてね」


確かに、殺し屋なんて職業が実際にあるとは信じてなかった。そこまで綾瀬は彼をを憎んでいるのか。そして彼も綾瀬に対して同じ感情を抱いているのか。


「彼が父親を恨むのは分かるけど、どうして父親が彼を殺そうとするんでしょうか。妹と会わせたのは好意じゃないんですか?」


「私の想像だけど、綾瀬は彼を試してたんじゃないかしら。自分に対して恨みを抱いていた彼と仲直りしたくて妹と会わせたけど、彼の気持ちが変わらないと知って邪魔になるならと殺すことを決めた」


まっすぐに私を見据えるおばさんの目が怖い。まるで名推理だと酔いしれているようだ。


< 202 / 390 >

この作品をシェア

pagetop