君の知らない空
「不思議よね、誰が刺客か分かるなんて。リストを作って部下に捜査させて、ひとりずつ片付けてるって。ヤられる前にヤり返すっていう考え方なんでしょうね、新聞やニュースには載らないのが余計に怖いわよね」
リスト?
ふと頭に浮かんだのは、桂一の持っていた男性の写真。比較的若い男性ばかりで、中には日本人ではない人も載っていた。
その中には小川亮もいた。
まさか彼が?
あの日、電車が遅延した日に見た彼の姿が思い出された。自転車に乗った彼とすれ違ったのは南町駅近く、夕霧駅の方へと向かっていた。
彼は霞駅から来たのではないか。
もしかすると霞駅で彼の部下と揉めたというのは、彼ではないのか。
じわじわと嫌な予感が込み上げてきて、胸が苦しくなってくる。
誰か、おばさんでもいいから、思いきり否定してほしい。彼は関係ないと。
「あなたも気をつけなさい、盗み聴きなんかしてたら、いつか痛い目に遭うわよ。相手は普通じゃないんだから常識は通用しないと思いなさいね」
「はい、分かりました。ありがとうございました」
深く頭を下げると、おばさんは私の肩にぽんっと手を載せた。顔を上げたら満面の笑みを湛えて、
「また、いつでも来なさい。新しい情報仕入れて待ってるから、ハルミちゃん」
と言ってくれた。
胸の中の不安が少しだけ消えていくような気がする。
「はい、きっと来ます。今度はまっすぐ……迷わないように、ここに来ますね」
私も、おばさんに負けないぐらい笑顔で答えて病室を出た。