君の知らない空


桂一は、彼を探している。


咄嗟に立ち上がった。
目を凝らしてアクセサリー店の店内、周辺の店内やフロアを見渡す。そこに小川亮の姿を求めて。


ただ会いたいからじゃない。
もし、ここに居るのなら知らせたい。
早く、すぐにここから離れて。


しかし、彼の姿はない。
ここにいるとは限らないし、桂一が彼を見つけたとも限らない。
それなのに、私はひどく動揺して迷ってる。


小川亮を探したい。
でも、ここを離れたら桂一が……


バッグから携帯電話を取り出した。ぐっと握りしめて、ひと息吐いて発信のボタンを押す。


早く出て……
呼び出し音が聴こえ始めてすぐに、通りを流れていく人たちの中に視線を感じた。


少し離れた店先から、ひとりの女性が見ている。はっきりと顔は見えないけど、たぶん知らない人。気にも留めないつもりでいたのに、女性はこっちに向かってくる。
私は携帯電話の発信を止めた。


誰?
見たことある……?


はっきりと思い出せないけど見覚えのあるような女性が、きょとんとしている私の前で立ち止まる。


「高山さん、お久しぶりです」


思い出した!


「あっ、沢村さん?」


ジムのインストラクターの沢村さん。ジムで見てた服装と違うし、ばっちりメイクしてるから全然分からなかった。
沢村さんは嬉しそうな笑顔を見せる。


「はい、お元気ですか? 最近いらっしゃらないから気になってたんですよ、どうしたんですか? お仕事忙しいんですか?」


「沢村さんも……こんなところで会えるなんて、よかったぁ……」


約一週間、顔を見なかっただけなのに、とても懐かしく感じる。


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