君の知らない空



「私、彼の……綾瀬さんの妹を知っているんです。彼女から直接、綾瀬さんやお父さんのことは聞いたことはないんですけど、彼女がどれだけ事情を知っているのか気になります。たぶん知らないんじゃないかと思うんです」


「そう、彼女はどこまで知ってるのかしらね。きっと彼女は父親に利用されているんでしょう。父親と兄との板挟み……苦しい立場だと思うわ。彼女が二人の仲裁に入ることが出来たら、それが一番いいのかもしれないわね」


その言葉を聞いた瞬間、燻っていた胸の奥にぱっと光が差し込んだ。美香が二人の間に入って喧嘩を止めることが出来たら、小川亮は何も手を出す必要はなくなるんだ。


私は、その可能性に掛けたい。
でも……


「私に何か出来ることはないんでしょうか、何とかしたいんです」


おばさんはきょとんとした顔をして、首を降る。いかにも止めろと言いたげに、私を引き止めている。


「あなただけじゃ無理でしょうね……正直なところ、彼らには関わらない方がいいと思う。妹さんだって、本質はあなたの知ってるいい子ではないのかもしれないのよ」


「いいえ、彼女は本当に真面目で、素直な子で……私は彼女は悪い子じゃないと思うんです」


思わず身を乗り出した。
美香は兄と父親の確執を知らないのか、知っていても何も出来ずに困っているはずだと思うから。


「信じてるのね、私は妹さんを知らないから何とも言えないけど。あなたが直接言うべきではないと、分かってもらえなさそうね」


呆れたように、おばさんは笑った。


「はい、危険かもしれないけど止めたいんです。自分に出来ることを探してみます」


「気をつけてね、私も力になれるように努力してみるわ」


おばさんの言葉が、そっと背中を押してくれているような気がした。


< 227 / 390 >

この作品をシェア

pagetop